連載 8:現在の半導体産業の構造(3)製品からソリューション提供へ
フォトマスクを受け取ったファウンドリは、それに従ってトランジスタや配線などを形成します。CMOS の IC 製造はとても長い工程を経て製造されます。例えば、p 型基板に n 型領域を形成することだけをとっても、まずウェーハ全体を酸化し、n 領域となる部分だけ酸化膜を取ります。むき出しになったシリコンにイオン注入などで n 型のドーパント(As や P)などを打ち込みます。このときは加速電圧数十 kV という高電圧でイオン化したAsイオンをシリコンに打ち込みます。
シリコンの表面に As イオンが強制的に打ち込まれますので、結晶のシリコン原子が壊されたり飛び出したりします。このため、アニールして結晶性を回復させると同時にいくつかの As が部分的にSiと置き換わるようになります。As がシリコン結晶の中に入るといってもたかだか、1/10 万ないし 1/100 万程度です。このようにして図 1 の構造を作ることができます。
図1 p 型基板に n 型領域を作る
これまでの工程だけでも、ウェーハ洗浄、乾燥させた後、酸化炉の中においてウェーハを全面酸化、そしてリソグラフィ工程に入ります。リソグラフィ工程では、まず洗浄、乾燥、レジストをスピン塗布、プリベークして液状のレジストを固めます。そのあとフォトマスクを介して露光すると、光の当たったところだけ反応し現像によって溶け出します。これによってレジストのパターンを描きます。残っているレジストをマスクとして酸化膜をエッチングしてシリコンがむき出しにした後にレジストを除去し、ウェーハ全面にイオン注入するわけです。アニールする前に、洗浄・乾燥を経て次の工程にいきます。
サプライチェーンでの企業が多い
この n 型領域の形成という単純な工程だけでもさまざまな工程を通りますので、一つの IC チップを製造するのに数百ないし 1 千工程をくぐります。この工程だけでも、純水製造装置や洗浄機、乾燥機、そしてレジスト塗布装置、ベーク炉、高価な露光機、現像処理、レジスト除去のプラズマ装置、エッチング装置、イオン注入機、アニール炉などの装置が必要で、これらの装置を製造する企業がいます。また、レジストや酸素やプラズマに使うアルゴンガスなどの化学薬品の企業もいます。
そしてウェーハが完成した後、はんだボールやリード電を取り付け、プラスチック樹脂でシリコンチップをカバーする後工程でチップを製造します。後工程では、750~800µm の厚さのウェーハを薄く削り 100~200µm 程度まで削ります。その後、ウェーハをレーザーあるいは薄い刃で切り出しますが、ここでは料理に使うラップよりも厚く透明な樹脂の膜の上にウェーハを載せています。チップに切り出すダイシング工程が済むと、張り付けている樹脂テープを広げチップ間隔を広げ取りやすくします。
そのあと後、リードフレームやプリント配線基板上にチップを搭載し、チップ上の電極(非常に小さく間隔が狭い)と外部リードにつながっているリードフレームをワイヤボンディングなどで接続します。多ピンで電極間隔が微細な先端ICではリードフレームではなく小さなプリント配線基板に載せますが、取り扱う外部端子もシリコン電極並みに小さなものもあり、チップサイズパッケージと呼ばれます。
シリコン上の電極と外部へのリード端子をつなぎ終えると、プラスチック樹脂をモールドで被せ、シリコンを保護します。モールド機から IC を切り離した後、IC 特性をテストして測定します。良品と不良品とに分け良品だけを包装して出荷の準備を行います。
以上の後工程だけでも、ウェーハを薄く研磨する機械や切断機、チップをリードフレームに載せるマウンター、ボンディング機、モールド機などの機械メーカーや、樹脂テープや樹脂、ボンディング線、リードフレームなどの材料メーカーも必要です。こういった製造装置や材料はまだまだ日本の企業が世界で活躍しています。
完成した IC はプリント回路基板に搭載し、システムに電気信号を送るモジュールあるいはシステム基板となります。プリント回路基板の多くはもう中国で生産され、スマートフォンなどの製造企業などで使われます。日本のプリント回路基板メーカーは、一般的なプリント基板ではなく、CPU や SoC といった高集積チップの基板を生産しており、中国と分業しています。
IC の価値はソリューションに
半導体技術の動向は高集積化に向かっていることは今も昔も変わりません。集積度を上げれば上げるほどシステムが小型になり、性能が向上し消費電力が下がり、コストも下がるからです。
IC ビジネスは IC を部品単体として製造販売してきた昔と違い、様々な回路や機能を集積している高集積 IC を使うシステムまで知る必要が IC メーカーには求められます。顧客の言うとおりに作る時代は終わり、IC ユーザーが作りたいシステムまで踏み込んだソリューション提案が求められる時代に来ました。世界の半導体メーカーの勝ち組が行っているビジネスはまさにソリューション提案です。ソリューションで売り込めば、IC の価格を落とすことなく価値をユーザーが認めるからです。
日本の半導体メーカーがこれまで儲からなかった理由の一つは IC の価値を理解することなく、ユーザーの言われるままに価格を下げてきたことにあります。世界の勝ち組は IC の価格を簡単には下げません。システムを理解して IC の価値を訴求することで結局システムコストが安くできることを知っているからです。IC の価格が競争相手よりも高くても、それを使うことでシステムコストが下がることを訴求するのです。
著者:津田 建二
国際技術ジャーナリスト、セミコンポータル編集長
現在、英文・和文のフリー国際技術ジャーナリストとして活躍。長年、半導体・エレクトロニクス産業を取材。ブログやメディアを通じて半導体産業にさまざまな提案をしている。海外の技術ジャーナリストとも幅広いネットワークを持つ。
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