連載企画「半導体産業の現状と未来」第 9 回:半導体の未来はどうなる(1)IT のメガトレンドがけん引

2023 年 5 月 19 日 - 午前 8:00

これまで述べてきたように、半導体チップをけん引する大きな流れは電機からITへシフトしてきました。半導体購入企業の上位ランキングから見ても、パソコンとスマートフォンの企業ばかりです。IT のハードウエアはもちろんパソコン、サーバーなどのコンピュータとスマホを生産しています。

こうなると半導体企業を発展しようとするとITのトレンドがどこに向かっているのかをしっかりと捉える必要があります。こうしなければ誰も買わない製品を作ってしまうリスクがあるからです。ITが大きく動くところに半導体の市場があります。

今の IT メガトレンドは AI、5G、IoT プラスα

そこで、IT のメガトレンドを見ると、10 年ほど前はモバイル、SNS、クラウド、ビッグデータ、の 4 つでした(図 1)。これらはどれも全て今や IT のインフラになり誰でもが知らず知らずに使っている時代になりました。現在ではこれが AI、5G、IoT システムが中核でしょう。4 つ目を追加するなら、自律化が有力ですが、セキュリティ、産業用メタバースといえるデジタルツインも候補になります。

図1 現在の IT のメガトレンドは 5G、IoT、AI、そして自律化など 作成筆者


AI を突破する生成 AI

AI は技術的に進化していますが、ビジネスとしては行き詰まっているようにも見えます。しかし、ChatGPT のような生成 AI(Generative AI)がこれからの突破口を開きそうです。AI がビジネスとして行き詰まったように見えるのは専用 AI しか実現できなかったからです。例えば、画像認識技術を使って AI で学習させて産業用の外観検査装置を作る場合でも、製品によっては何が不良品かを見分ける基準が製品ごとに異なります。冷蔵庫のキズ、半導体ウェーハのキズ、ダイヤモンドや宝石などのキズなど、製品ごとに不良品の定義が異なるため、それぞれ専用に認識させる画像をカスタマイズしなければなりません。

ところが、ChatGPT で見られるように漠然とした質問でも答えられる生成 AI は、汎用的に使える可能性があります。この先には、人間のように受け答えができる汎用 AI につながると期待されています。OpenAI 社は生成 AI に特化して汎用 AI を目指しています。例えばテキストで「春に咲く黄色い花の名前を教えて」と打てば、そのような花の名前を写真と共に示してくれる AI「DALL・E2」をすでに開発しています。

5G の進化は 20 年代続く

5G は始まったばかりで、まだデータレートが遅い初期の 5G からデータレートやレイテンシを改良し、スマホだけではなく様々な機器にも使えるようになるなど進化していきます。そして、使用する周波数は 1GHz 近辺の低いものから 2~6GHz の周波数帯、そして波長がミリメートルで表せるミリ波帯の3種類を電波の届く範囲と、データレートの速度に応じて構成していきます(図 2)。このため 5G の進化は 2030 年近くまで続くと見られています。

図 2 5G の基本構成は階層型アーキテクチャへ 出典:Nokia


そのために多くの基地局を設置しなければなりません。そこで、小型軽量の基地局システムが求められます。このシステムに適した半導体チップが必要です。通信機器大手の Ericsson や Nokia などが自社開発の半導体チップを持つのはこのためです。汎用のプロセッサチップでは実現できない高い性能と低い消費電力を実現し、小型化を図るために基地局向けの専用の半導体チップが必要になのです。

IoT は年率 20% で着実に成長

IoT はセンサで対象物や環境を測定し、要求される項目(生産効率や生産量、歩留まりなど)を向上させるシステムです。測定したビッグデータを解析するのに AI を使うことが多く、データ数が少なければユーザー自身が考えて対策を打つことができます。この IoT システムは最近デジタルトランスフォーメーション(DX)と呼ばれることが多くなりました。

しかし IoT システムは Ericsson によればセルラーネットワークで通信するIoTが年率約 20% で着実に成長しています。一時的なバズワードではありません。生産性の向上や売上向上をもたらすシステムだからこそ、ビジネスで使われるケースが増えています。ただし、これも用途ごとにカスタマイズする必要があるため、ハードウエアをあまり変えずにソフトウエアでカスタマイズすることが多いのです。つまりコンピュータシステムがデータ収集・管理・蓄積・解析を受け持ちユーザーへのデータを見える化するソフトウエアも必要となっています。

四つ目の候補となる自律化は、今後の自動運転やロボットなどで欠かせない技術です。自律化は、これまでの自動化とは大きく違います。自動化はあらかじめプログラムされた通りに動く技術ですが、自律化はセンサからの情報に基づいて動作を変える技術です。自動運転では、前方に障害物を発見すれば、まっすぐに進むことをやめ、曲がるか止まるかを周囲の情報に基づいて決めます。周囲にも障害物があれば反対側に曲がるか停止します。各種のセンサ情報に基づいてどのように行動すべきかについてあらかじめ設定しておけば、センサ情報でロボットや自動車が人間のように行動を変えるように見えます。

これまでのITと全てのトレンドの場合でも、基本技術は半導体エレクトロニクスであり、それ以外の制御技術は今すぐ使える技術ではありません。量子コンピュータが使えるのは 2030 年代と見られており、半導体は量子コンピュータの制御にも使われる技術として生き残ります。

著者:津田 建二
国際技術ジャーナリスト、セミコンポータル編集長
現在、英文・和文のフリー国際技術ジャーナリストとして活躍。長年、半導体・エレクトロニクス産業を取材。ブログやメディアを通じて半導体産業にさまざまな提案をしている。海外の技術ジャーナリストとも幅広いネットワークを持つ。

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