連載企画「半導体産業の現状と未来」第7回:現在の半導体産業構造(2)設計ツール、製造装置、材料などのサプライチェーン

2023 年 3 月 9 日 - 午前 8:00

半導体産業には実に多くの企業が参加し形作っています。半導体製品を使う企業から作る企業までたくさんの、しかも多くの国々の企業が参加しています。それを図1で紹介します。

図1 半導体産業のサプライチェーン さらに細かくすると製造装置に使うバルブや流量計など部材のメーカーやシリコンの結晶メーカー、結晶成長に使うるつぼメーカーなど様々な業種が関係している 出典:筆者作成

半導体産業は半導体を設計して製造するだけではありません。半導体を注文する顧客がいます。例えば、パソコンなら、CPU メーカーがパソコンの機能や使い方、性能などを顧客とディスカッションしながら決めていきます。このため半導体を直接使うパソコンやスマートフォンなどの電子機器メーカーに納めます。しかし、コンピュータを多数設置するデータセンターを持つクラウド業者は、GAFA(Google、Amazon、Facebook(現 Meta)、Apple)で代表されるITサービスベンダーです。彼らは、持っているコンピュータの性能を上げ、消費電力を下げるために、市販のコンピュータだけではなく、半導体チップまでも自前で開発するようになってきました。

ですからITサービスベンダー、電子機器メーカー、半導体メーカー、EDA(設計ツール)ベンダー、ファブレス半導体、IP ベンダー、設計サービスを提供するデザインハウス、ファウンドリ、製造装置メーカー、材料メーカー、テストや各種試験装置のメーカー、後工程サービスを提供する OSAT(Out-Sourced Assembly and Test)、後工程向けの製造装置メーカー、後工程材料メーカー、などで半導体サプライチェーンが構成されています。もちろん、半導体製品が完成するとそれを流通ネットワークに流す代理店、ディストリビュータもいます。

こういった半導体 IC のサプライチェーンは、今では出来上がったものですが、かつては半導体メーカーが 1 社で製品を作っていました。それが連載第 3 回で紹介したように、次第に、製造装置メーカーや材料メーカーに分かれ、さらに設計ツールメーカーが現れ、ファブレスに分かれ、ファウンドリや OSAT が誕生し、現在のサプライチェーンに分化してきました。

半導体の価値は設計や IP に

半導体産業の価値は、かつては製造プロセスにありましたが、ロジック半導体に代表されるように、最近では半導体チップで何ができるか、という機能に価値が広がってきました。そして価値が移ったというよりも、設計、製造、パッケージングそれぞれに価値があり、誰でもすぐに始められて競争力を持てるという訳ではなくなりました。

半導体 IC の中でも、付加価値の高い一部の回路は IP(知的財産)あるいは IP コアと呼ばれ、IP だけでビジネスを行う企業も出ています。ソフトバンクが全株式を持つ英国の Arm 社は IP ベンダーの代表格です。CPU コアを中心に GPU コアや AI(機械学習の推論機能)コアも持っています。

IP ベンダーでは、その CPU コアのライセンスを半導体メーカーや電子機器メーカーに販売し、量産するようになったら出荷額のロイヤルティ料を受け取るビジネスモデルです。CPU はコンピュータそのものですからソフトウエアを開発する企業が増えてくれなければビジネスとしては成り立ちません。Arm 社が強い理由はソフトウエア開発会社やサービス会社をたくさん持っており、ファウンドリも含めてエコシステムを形成していることです。ここに 1000 社が参加しています。言い換えると 1000 社もの企業がソフトウエアを開発してくれるため、半導体メーカーやユーザーは CPU コアを使ってカスタマイズできるのです。

しかし、最近はライセンスフリーの RISC-V コアを米カリフォルニア大学バークレイ校が開発し、コンピュータの基本ソフトである OS の Linux のように誰でも自由に手を加えられるようになりました。基本命令を 47 個に設定し、命令セットを自由に追加できるようにしていることが特長です。

設計には EDA ツールが欠かせない

半導体 IC チップは、まるで東京など大都市の地図を見ているかのように複雑です。特に複雑なのはロジック半導体です。メモリは同じセルがアレイ状にずらりと並んでいますが、設計は比較的単純です。アナログICは集積度がデジタル IC と比べると低いので、やはり複雑ではありません。

複雑なロジック IC を設計するための支援ツールが EDA(Electronic Design Automation)ツールと呼ばれています。ロジック IC の設計では、大きな機能を実現するための機能を記述し、それを実現するための回路図に変換します。機能記述はソフトウエアプログラムで行いますので、IC 設計では特有の言語を習得する必要があります。プログラムではミスがつきものなのでデバッグや、形式通りに従っているかどうかをチェックしたり、正しい回路かどうかをチェックしたりするための検証作業も欠かせません。ソフトウエアのプログラミングと同じです。

回路が出来上がると、それを平面上のトランジスタや配線などを描くためのフォトマスクパターンを作成しなければなりません。マスクパターンが IC の設計図となり、リソグラフィ工程で使われますので、マスクパターンをファウンドリに渡すことになります。EDA ツールベンダーでは、Synopsys、Cadense Design Systems、Siemens EDA の 3 社が上位を占めています。

(続く)


著者:津田 建二
国際技術ジャーナリスト、セミコンポータル編集長
現在、英文・和文のフリー国際技術ジャーナリストとして活躍。長年、半導体・エレクトロニクス産業を取材。ブログやメディアを通じて半導体産業にさまざまな提案をしている。海外の技術ジャーナリストとも幅広いネットワークを持つ。

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