連載企画「半導体産業の現状と未来」第 4 回:半導体とは何か(1)動作原理と技術の変遷

2022 年 12 月 9 日 - 午後 2:11

半導体とは何か、という問い合わせをさまざまな記事でよく見かけます。答えはたいてい、金属と絶縁体との中間の性質を持つ材料、です。ところが、話はそこで止まってしまいます。だったら、なぜその材料が今注目され、しかもデータ処理や記憶作用を持つのか、全く答えになっていません。ここでは、その答えを求めていきましょう。

半導体材料の特長は、元素の周期律表で見る 4 価の元素です。シリコン(Si)も炭素(C)、ゲルマニウム(Ge)も全て 4 価の元素です。ただし、4 価の元素が全て半導体とは限りません。今との所、ゲルマニウムやシリコンは半導体ですが、炭素の中でも規則正しく並んでいる結晶のダイヤモンドも半導体的な性質を示します。いずれも 4 価の元素の中で、エネルギーバンドギャップが広すぎると絶縁体に近く、適度に狭いと半導体になるのです。電気を良く通す金属の多くはエネルギーバンドギャップがゼロです。

このエネルギーバンドギャップは、原子核の周りを回っている電子が外へ飛び出すために必要なエネルギーと考えてよいでしょう。電子が原子核の影響を離れ外へ飛び出すと電流が流れる伝導電子になります。

また、3 価の元素と 5 の元素をピタリと 50% ずつになるように調整して人工的に 4 価を作り出した化合物半導体もあります。例えば、3 価のガリウム(Ga)と 5 価のひ素(As)や窒素(N)を混ぜると GaAs 半導体や GaN 半導体になります。

ただし、これだけではプロセッサやメモリにはなりません。半導体材料を使って、いつでも電流を流したり止めたりするスイッチを構成しなければ、デジタル回路はできません。電気的に電流が流れる時を 1、流れない時を0とすると電流のオン・オフだけでデジタル回路を作ることができます。このスイッチの役割を果たすデバイスがトランジスタです。トランジスタは真空管に代わる増幅素子として生まれたため、デジタルだけではなくアナログ回路でも十分な能力を発揮します。

では、半導体でなぜトランジスタができるのでしょうか。これを説明する前に、半導体の面白い性質であるn型とp型について知る必要があります。最初に半導体を、伝導体と絶縁体の中間の性質、と説明したように、4 価の半導体にごくわずか 5 価のP(燐)やAs(ヒ素)を 100 万分の1程度加えると電子が豊富なn型半導体ができ、3 価の B(ボロン、ホウ素)をわずか入れると(ドープすると)、電子の抜け殻というべき正孔(ホール)が豊富な p 型半導体ができます。これらnと p をくっつける(接合する)と、p 型からn型には電流が流れますが、n 型から p 型へは電流が流れません。半導体ではこの性質がとても重要です。

そうすると、n 側をプラス、p 側をマイナスの電池をつなぐと、電流は流れませんので、この間に電流を流す調整弁をとりつけ、その調整弁をひねると電流が流れ、調整弁をもとに戻すと電流を止めることができます。実がこれがトランジスタなのです。

現在のトランジスタは、MOS(Metal-Oxide-Semiconductor:金属-酸化物-半導体)トランジスタ、または MOSFET(MOS 電界効果トランジスタ)と呼ばれており、図 1 のような断面構造をしています(図 1)。

図 1  MOSトランジスタの断面図(左)とトランジスタ記号(右)

N 型のドレインにプラス電圧を加えておき、ゲートにプラス電圧を加えると、ゲートのプラスに引っ張られて、p 型半導体の表面にマイナスの電荷をもつ電子が引き寄せられます。ゲートの真下にある p 型半導体の表面部分だけが n 型に反転するのです。これを MOS 反転と呼びます。そうすると n 型のドレインから n 型のチャンネル(通路)を通り、ソースの n 型領域に電流が流れます。導電体のように電子が流れていき電流が流れます。ゲート電圧をゼロにすると p 型表面の n 層は消え、再び電流を遮断します。

トランジスタが 1 個できると、それらを 1 枚のウェーハ上でつなぎ合わせれば電子回路を作ることができます。複数のトランジスタを集積した電子回路を集積回路(IC)と呼びます。

トランジスタを 6 個つなぎ合わせてフリップフロップ(双安定バイブレータ)を構成するとメモリ(SRAM)ができます。また、加算器をはじめとする様々な論理演算器から構成される ALU(算術論理演算装置)はコンピュータの基本的な演算装置となります。

メモリや演算器を組み合わせることによって、様々な計算処理を行わせることが可能になり、ここにコンピュータのように、ソフトウエアを導入することができます。インテルが 1971 年に発明したマイクロプロセッサとメモリのおかげで、コンピュータシステムが組み込みシステムと名前を変えて、あらゆるところに入り込んでいます。こういった、コンピュータというハードウエアを基本的なプラットフォームとして、ソフトウエアをいろいろ変えることでシステムの機能を変えられるようにするシステムが、SDX(Software Defined Everything)です。最近では自動車でさえも SD-Vehicle という概念を語り始めました。

著者:津田 建二
国際技術ジャーナリスト、セミコンポータル編集長
現在、英文・和文のフリー国際技術ジャーナリストとして活躍。長年、半導体・エレクトロニクス産業を取材。ブログやメディアを通じて半導体産業にさまざまな提案をしている。海外の技術ジャーナリストとも幅広いネットワークを持つ。

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